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岡山地方裁判所 平成元年(ワ)415号 判決

原告

小野秀夫(以下「原告小野」という。)

原告

萩原安明(以下「原告萩原」という。)

原告

久保田義一(以下「原告久保田」という。)

右原告ら訴訟代理人弁護士

奥津亘

被告

内山工業株式会社

右代表者代表取締役

内山幸三

右訴訟代理人弁護士

山崎武徳

近藤弦之介

香山忠志

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らと被告間において、原告らが被告に対し雇用契約上の権利を有することを確認する。

2  被告は、各原告に対し、別紙請求債権目録の未払賃金等合計額欄記載の金員及びこれに対する平成二年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、各原告に対し、平成二年一〇月から毎月二五日限り別紙請求債権目録の平成二年度賃金額欄記載の金員を支払え。

4  被告は、各原告に対し、平成元年四月二八日から、各原告を原職に復帰させるまで、一日一万円の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

(原告小野)

一  請求原因

1 原告小野は、昭和三五年一月二五日、被告と雇用契約を締結し、被告岡山第一工場(以下「第一工場」という。)コルクジスク製造の職場を経て、被告岡山第二工場(以下「第二工場」という。)CC加工組班長として勤務していた。

2 被告は、原告小野に対し、平成元年四月二七日付けで原告を懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇Ⅰ」という。)をし、右意思表示はそのころ原告小野に到達した。

3 被告は、本件懲戒解雇Ⅰには解雇事由が存在すると主張している。

よって、原告は、被告に対し、

(一) 被告が平成元年四月二七日から平成二年九月分までに原告小野に支払うべきであった賃金、一時金、業績貢献金、奨励金、健康保険料事業主負担分等(別紙請求債権計算書(略)記載のとおり。)

(二) 被告が平成二年一〇月以降原告小野に支払うべき一か月の賃金(別紙請求債権目録(略)の平成二年度賃金欄額記載のとおりであり、その支払日は毎月二五日)

(三) 被告の不当な解雇による精神的、経済的苦痛に対する慰謝料(金銭に換算すると一万円)

の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

本件懲戒解雇Ⅰの懲戒事由は次のとおりである。

1 配転命令拒否

(一) 被告は、昭和六三年一〇月三日、原告小野に対し、同月四日付けで現職を解き総務部藤崎作業所勤務を命じた(以下「本件配転命令Ⅰ」という。なお、原告小野並びに後述の原告萩原及び同久保田に対する各配転命令を併せて「本件配転」という。)。

(二) 原告小野は、本件配転命令Ⅰに服さず、第二工場CC加工組に出入りしてペンキ塗りなどをした。被告は、文書で再度配転を命じ、新配置についていないことに対して再三警告書を発したが、原告小野はこれに従わず、守衛から「第二工場への入門はしないように。」と再三注意されたにもかかわらず、元の職場へ出入りした。被告は、昭和六三年一〇月二一日、一一月二一日、一二月二二日、平成元年一月二三日、二月二二日、三月二五日の六回にわたって藤崎作業所へ就労するよう警告し、藤崎作業所に就労していない期間は、労働契約による労務の提供が一切ないのであるから欠勤として処理する旨通知すると共に、懲戒処分をする権利を留保することを通知したが、その後も、原告小野は、藤崎作業所で就労しなかった。原告小野は、昭和六三年一一月二九日には、守衛の注意に対し、「給料ももらっていないんだから帰る。」と言って入門せずに立ち去り、その後数日間は守衛の注意を受けては立ち去る行為を繰り返したが、その後は解雇に至るまで藤崎作業所へは就労せずに無届欠勤が続いた。

(三) 原告小野の右行為は、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、一五号、三二条(入場の拒否)二号、六号、三四条(欠勤の届出)一項、二項、四項、五〇条(異動)二項に違反し、六八条一号、一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

2 応援命令拒否

(一) 被告は、昭和六三年九月五日、原告小野に対し、総務部営繕緑化班への応援を指示した(以下「本件応援命令」という。)。

(二) 原告小野は、第二工場長が応援の趣旨を説明し指示したにもかかわらず、執拗に質問を繰り返して応援作業に従事しなかった。被告は、総務部長名の文書で警告すると共に、第二工場長名での応援配置の命令書を発した。これに対し、小野は、当日及び九月六日の二日間は応援作業に従事したが、同日総務部長宛に応援に対する質問書を提出し、当日中に回答がなかったとして、九月七日以降応援作業に従事せず、元の職場へ行き、勝手に職場周辺の草取りを始めた。被告は、業務命令に従い応援作業に従事するように口頭及び文書で再三警告したが、原告小野は応援には行かず、草取りをしたり勝手に被告の備品を使ってペンキ塗りをするなどして、同年一〇月三日まで違反行動を続けた。

(三) 原告小野の右行為は、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二、八号に違反し、六八条一号、一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

3 「組合業務に支障が出るため」を理由とする違法ストライキ

(一) 被告従業員で構成する全国化学労働組合内山工業労働組合(以下「内山労組」という。)は、昭和六三年六月二四日、昭和六三年六月二四日(金)に組合業務に関する特別休暇願いを申請したが、会社に拒否されたので、組合業務に支障が出るためやむなく指名ストライキを行うとして、同月二八日から春闘関係諸問題解決まで委員長原告小野及び書記長曽根隆仁(以下「曽根」という。)が、指名ストライキの実施の通告後ストライキに入り、曽根は同年八月三一日まで、原告小野は同年九月二四日まで、ストライキをした。同年八月三一日、内山労組は、書記長山田が同年九月五日より同月一七日まで指名ストライキを行う旨通告した。被告は、九月五日、ストライキを解除するよう警告したが、六日になっても中止しないため、同日文書で、内山労組の責任者及び争議参加者(山田)の処分を行う旨通告した。

内山労組は、七日になってストを解除し、山田が職場に復帰したが、以後は、「会社の不当支配介入、不当労働行為をやめるよう要求して」と争議の理由を変更して、同年一一月二八日まで指名ストライキを行った。

被告は、同年一〇月二〇日、右ストライキを違法な争議行為であるとして、ストライキ期間は無断欠勤として扱うことを通告、同年九月一二日以降の指名ストライキについても、違法性を有する争議行為であると考えていることを通告した。

原告小野は、ストライキ参加者及び内山労組の執行委員長として右の違法ストライキについて責任を負うべき立場にある。

(二) 原告小野の右行為は、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、一五号に違反し、六八条一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

4 無通告ストライキ

(一) 内山労組は、昭和六三年六月二日、「六月六日から一〇日までの邑久工場全組合員を対象とする全面ストライキ」及び「五月三〇日から六月三日までの岡山、大阪、茅ケ崎工場の組合員七四名(小野を含む)を対象とする重点部門指名ストライキ」の実施を通告し、同年六月六日から邑久工場全組合員の全面ストライキ及び岡山、大阪、茅ケ崎工場の組合員七四名(小野を含む)を対象とする重点部門指名ストライキに入った。被告は、邑久工場の全面ストライキのみであると理解していたが、同月六日の朝、岡山、大阪、茅ケ崎工場の組合員七四名(小野を含む)を対象とする重点部門指名ストライキに入ったので、内山労組に対して即刻指名ストライキを解除するよう警告した。内山労組はこの警告によりストライキを中止したが、大半の組合員が就労したのは午前九時三〇分頃であった。なお、一部の組合員にはストライキ中止の対応ができておらず、午前一〇時頃まで就労できなかったものがいたり、中止指令の伝達ができず、終日就労できなかった者もいた。これら内山労組の違法行為により被告は多大の損害を被った。被告は六月八日、内山労組に対して抗議書を発し、内山労組の損害賠償責任及び組合責任者の責任追及について権利を留保する旨通告した。

原告小野は、内山労組の執行委員長として右の違法ストライキについて責任を負うべき立場にある。

(二) 原告小野の右行為は、これは、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、一五号に違反し、六八条一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

5 就業時間中の組合活動

(一) 内山労組は、昭和六三年七月一一日ころから、組合員に対し、イエローカードに管理職の言った言葉や言動を監視して必ず書き取るように指示して組合員にカードを配付し、作業衣のポケットに入れさせた。被告は、同年八月一〇日、これに対する抗議書を提出したが、内山労組は受領を拒否した。被告は、同月一一日、再度抗議書を出し、組合指令及び組合員の行為は就業時間中の組合活動に該当し、就業時間中の職務専念義務に違反する行為であるので、イエローカードを作業場へ持込むことを禁止したが、内山労組は中止しなかった。被告は、同月一七日に改めて警告書を発したが、内山労組はこれを無視した。被告は、同月一九日にも警告書を発しようとしたが、内山労組が受領拒否し、郵送したが受領は拒否された。

更に内山労組は、組合ニュース等でカードの職場内持込みは正当な組合活動であると宣伝した。被告は、同年九月一日付で個人宛に注意書を発したが、これも無視された。

また、内山労組は第一工場の組合員に対し、胸にワッペンを付けさせた。これに対し、被告は八月一二日、第一支部長松田宏文宛に警告書を発したが、内山労組はこれを無視し、逆に抗議書を提出した。

原告小野は、内山労組の執行委員長として、右一連の組合員による就業時間中の組合活動を指示した。

(二) 原告小野の右行為は就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、一五号に違反し、六八条一二号、一五号、一六号の懲戒事由に該当する。

6 争議参加者、欠勤者の無許可会社構内立ち入り

(一) 原告小野は、一〇月二五日午前一〇時三〇分ころ、守衛に断りもなく勝手に役員室に入り込んだ(小野は当日指名ストライキ)、同月二八日以降、昭和六三年一一月二八日までの間、次のとおり守衛の入門制止も聞かず、岡山第二工場に立ち入った。

一〇月二八日午前九時一〇分ころ、第二工場製造二課長を訪ね、無断で第二工場事務所に立ち入った。

一一月一五日午後四時四五分ころ、太田、山田とともに第二工場製造一課長を訪ね、無断で第二工場へ立ち入った。

同月一六日には、工場長に面会を求め、原告萩原とともに、第二工場内に立ち入った。

同月一八日午前九時頃、無断で第一工場に立ち入った。

これらの行為に対し、被告は、同年一〇月三一日に注意書、一一月一六日に警告書、一一月二一日に通知書をそれぞれ発して警告した。

(二) 原告小野の右行為は、就業規則六条(服務規律)一五号ロ、ハ、三二条(入場の拒否)二号、六号に違反し、六八条一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1(一)は認める。(二)、(三)は争う。

2 同2(一)は認める。(二)、(三)は争う。

3 同3は争う。

4 同4は争う。

5 同5は争う。

6 同6は争う。

五  再抗弁

1 本件配転命令Ⅰの無効

(一) 労働協約又は労使慣行違反

(1) 被告と、内山労組との間の労働協約三四条(以下「本件規定」という。)には、〈1〉組合員の職場、職種転換は本人の意思技能を公正に考慮して行う。但し組合に異議ある場合は組合と協議する。〈2〉各事業所への転勤又は関係会社への出向については本人の意思技能を公正に考慮して行う。但しこの場合事前に組合と協議のうえ決定する。〈3〉組合役員を異動する場合は事前に組合と協議決定する。旨の規定があり、確認事項として、組合役員とは執行委員を指すと定めている。

右の「協議のうえ決定」、「協議決定」とは、被告と内山労組とが協議のうえ、双方が同意することを意味する。

仮に、本件規定が労働組合法上の労働協約としての効力を有しないとしても、被告と内山労組間では、長年にわたり、組合員及び組合役員の配転について本件規定のとおり労使間の協議が行われてきており、労使慣行として法的効力を有する。

(2) 原告小野は、内山労組の組合員であり、本件配転命令Ⅰが発せられた当時、内山労組の執行委員長であったから、本件規定二項、三項により、同人の配転については、事前に内山労組と協議決定しなければならない。

(3) 被告は、昭和六三年九月二三日、二六日ないし二八日、三〇日の五日間、一回二時間ずつ内山労組と協議をしたが、内山労組の質問に対し何一つ誠実な回答をせず、配転の必要性、合理性等について説明せず、右配転が内山労組に与える打撃については全く考慮を示さなかった。

したがって、協議決定に至っていないのはもちろん、実質的に協議があったとはいえないから、本件配転命令Ⅰは、本件規定に違反し無効である。

(二) 誠実協議義務違反

被告には、内山労組の組合員の配転について、内山労組と誠実に協議すべき信義則上の義務があり、本件配転命令は、これに違反する。

(三) 不当労働行為

(1) 原告小野は、昭和四六年七月から同五一年九月まで及び同五八年九月から同六三年一一月二六日まで内山労組の執行委員長を勤め、同日以降中央執行委員第二工場支部長である。

(2) 内山労組と被告との関係は、従来比較的安定していたが、内山労組の団結力、発言力は強く、賃上げを求めてストライキ等実力行使することも多く、被告にとっては邪魔な存在であった。特に被告の大手自動車会社の下請部品製造の比重が高くなると、被告は、安定した生産と超合理化された労働密度の高い生産過程に変更する必要性などから、組合の弱体化ないし分裂を意図し、昭和六二年ころより組合攻撃の姿勢を強め、同六三年春闘を期に、労使慣行や協約を無視した会社施設の組合使用の拒否、組合用務のための休暇付与の拒否、団体交渉の拒否等の攻撃を繰り返した。そして、同年六月一七日、第二組合として内山工業新労働組合(以下「新労組」という。)を結成させ、「ウチヤマニュース」を発行して内山労組の誹謗中傷や内山労組への不信を作り出す宣伝を行い、会社組織を上げて内山労組からの脱退と新労組への参加を勧誘した。

本件配転命令Ⅰは右のような被告の内山労組に対する攻撃の一貫として行われたものである。

(3) 原告小野が配転される藤崎作業所は、他の多くの組合員が稼働している本社、第一工場、第二工場のある岡山市江並から約一・二キロメートル離れている。被告には、右作業所程度(約七九平方メートル)の施設を設置する場所は、第一、第二工場内にいくらでも存在するのに、他人の土地を借りて作業所を新設する必要性、合理性はない。原告小野を他の従業員から切り離すことを目的とするものである。

(4) 藤崎作業所に配転された者は、原告小野及び同萩原の外に一〇名いるが、いずれも内山労組の組合員で組合活動家であり、その中には曽根隆仁中央書記長、松木一郎中央執行委員長兼邑久工場支部書記長も含まれている。内山労組以外の組合員は含まれていない。

(5) 右作業所での作業は、不良品の中から良品を選別する作業、バリ取り(ゴム製品の成型後に、はみ出して残っている不要物を除去する)作業等、技術不要で嫌悪される作業である。技術者である原告小野をそのような単純作業に就かせるのは同人らに対するいやがらせである。

(6) 被告には、臨時、パート等繁閑に応じて雇用調整をする従業員が、第二工場に六七名、邑久工場に五四名おり、これらの者についてはそのまま雇用しているし、本社及び邑久工場ではパート従業員を募集、採用しているのであるから、余剰人員対策という被告主張の配転理由には根拠がなく、原告小野及び同萩原を含む一二名を藤崎作業所に配転する業務上の必要性及び合理性はない。

(7) したがって、本件配転命令は、原告小野及び内山労組の組合活動を嫌悪し、他の従業員から隔離して、その組合活動を抑止し、ひいては内山労組を弱体化し、その影響力を弱めるためになされたものであって、組合への支配介入を目的としたものであるから、労働組合法第七条一項(ママ)、三項(ママ)の不当労働行為であり、無効である。

(四) 人事権の濫用

以上のとおり、本件配転命令Ⅰは、配転の合理的根拠も必要性もないのに、単純作業に就かせその労働意欲を削ぎ、他の従業員から隔離するという不利益を与えているもので、本来原告小野が契約した労働契約の内容を大きく変更するものである。また、その手続も一方的であり、十分な協議も打診もされていない。このような人事権の行使は権利の濫用である。

2 応援命令の無効

(一) 応援という職種変更、配置変更の業務命令は、就業規則上の根拠を欠く。

(二) 労働協約又は労使慣行違反

本件応援命令は、配置転換命令であるから、前記1(一)のとおり、労働協約三四条又は同条項の定めによる(ママ)によるとの労使慣行に基づき、内山労組との協議決定が必要であるが、これを経ていないから無効である。

(三) 不当労働行為

本件応援命令は、原告小野を従前の職場から排除し、炎天下の草取り等嫌悪される業務に従事させ、不利益を与え、組合活動を阻止し、ストライキ等に対する報復をなそうとしたものであり、不当労働行為である。

3 「組合業務に支障がでるため」を理由とする指名ストライキ

本件指名ストライキは、従前は労働協約ないし慣行として組合業務のための特別休暇を認めていたのに、一方的にこれを無視して特別休暇を認めなくなったという被告の不当労働行為に対する抗議としてなされたものであって正当な争議行為である。

4 無通告ストライキ

被告は、内山労組が、昭和六三年六月二日、「同年六月六日から同月一〇日まで」と記載して争議通告すべきところを、ワープロの訂正をすることを忘れて「五月三〇日から六月三日まで」との記載のまま争議通告し、同月六日の朝から岡山、大阪、茅ケ崎工場の組合員七四名の部分ストに入ったことを無通告ストと称しているが、右スト実施については口頭で説明してあるうえ、六月二日に既に日時が経過した五月三〇日からのストライキを通告するはずはなく、通告書の記載ミスであることは明らかである。内山労組は、記載ミスに気付いてからは早急にストライキを中止している。したがって、無通告ストライキの故意は存在せず、書類作成という手続上の過失にすぎないのであるから、違法ではない。

5 就業時間内の組合活動

これは、原告小野が内山労組の組織切り崩しに対抗し、証拠を集めるために、組合員にメモ用紙を所持させてメモさせたものであり、内山労組からの脱退と新労組への加入を組織的に勧誘するという被告の不当労働行為に対抗して団結を維持し組織を守るための正当防衛である。また、就業時間中にメモさせた事はないし、カードを所持して不当労働行為を見つけた場合にメモするだけであるから、就業の実質的妨害となるものではなく、許容される組合活動である。

6 争議参加者、欠勤者の無許可会社構内立入り

原告小野は、本件配転命令が無効であるから、従前の職場で就労するため、また、本件配転命令に対する抗議及び要求のための上司への面会を求める目的で立ち入ったものであるから、違法ではない。

7 懲戒処分手続違反

(一) 労働協約違反

労働協約三三条は懲戒手続につき、懲戒事由に該当した場合には、その都度経営協議会に付議して懲戒に処することがある旨規定している。そして、経営協議会は会社、組合それぞれ三ないし七名の委員をもって構成し、会社代表委員は社長が委嘱し、組合代表委員は組合において選出し(同一七条)、付議事項は開催日の一〇日前までに相手方に通知し(同一九条二項)、議長は会社側委員が当たり(同条三項)、意見の一致した事項で必要あるものについては書面に作成し、会社組合双方の機関において確認のうえ労働協約と同等の効力を有する(同二一条)とされている。

ところが、本件懲戒解雇Ⅰについては、右労働協約の規定に従った手続を経ていないから、本件懲戒解雇Ⅰは無効である。

(二) 労使慣行違反

仮に、右労働協約が労働組合法上の効力を有しないとしても、組合員の懲戒については、長年にわたり、右労働協約の規定のとおり、経営協議会を開催して労使双方が合意したうえで懲戒に処するという労使慣行が確立しており、これに違反する本件懲戒手続は無効である。

(三) 労働契約違反

原告小野は、右労働契(ママ)約の規定どおりの手続を経たうえで懲戒処分が行われる制度の存在を前提として労働契約を結んでいるから、本件懲戒解雇手続は、労働協約に反し、無効である。

六  再抗弁に対する認否

1 再抗弁1について。

(一) (一)(1)は否認する。被告と内山労組間には「労働協約」と題する書面(以下「本件文書」という。)が存在するが、本件文書には被告及び内山労組代表者の署名又は記名押印がなく、労働組合法一四条の要件を満たしていないから、労働協約としての効力はなく、その他一切の法律上の効力を有しない。原告小野主張のような労使慣行も存在しない。したがって、被告には配転に際し内山労組と協議すべき法的義務はない。仮に法的効力を有するとしても、「協議決定」とは、内山労組と協議し、人事権を有する被告会社がこれを決するという意味であり、双方が同意することを意味しない。(2)は、原告小野が、内山労組の組合員であったこと、本件配転命令Ⅰが発せられた当時、内山労組の執行委員長であったことは認める。その余は争う。(3)は、被告が、昭和六三年九月二三日、同月二六日ないし二八日、同月三〇日の五日間、一回二時間ずつ内山労組と協議したことは認める。その余は争う。

(二) (二)は争う。

(三) (三)(1)は、原告小野が、昭和四六年七月から同五一年九月まで及び同五八年九月から同六三年一一月二六日まで内山労組の執行委員長を務めていたことは認める。その余は否認する。(2)は否認する。(3)は、藤崎作業所が、本社、第一工場、第二工場のある岡山市江並から約一・二キロメートル離れていることは認める。その余は争う。(4)は、藤崎作業所に配転された者が原告小野及び同萩原の外一〇名いること、その全員が内山労組の組合員であり、その中には曽根隆仁中央書記長、松木一郎中央執行委員長兼邑久工場支部書記長も含まれていることは認めるが、他の者が組合活動家であるかどうかは知らない。内山労組以外の組合員が含まれていないことは認める。(5)は、藤崎作業所での作業が、不良品の中から良品を選別する作業、バリ取り作業等であることは認める。その余は否認する。(6)は争う。本件配転命令Ⅰは、昭和六三年春闘における内山労組の長期ストライキによって第二工場におけるベアリングシールの受注量が減少したことに基づく余剰人員対策として実施したものである。業務上の必要性があり、配転者の人選についても、合理的な基準に基づいて行われた。(7)は争う。

(四) (四)は争う。

2 再抗弁2について。

(一) (一)は争う。

応援命令が労働協約、就業規則に定めてないからと言って、業務命令を発しえないものではない。過去にも、生産と人員配置のアンバランスを解消するため、暫定的措置として、工場間あるいは工場内において応援という形で人員配置を行ってきた。

(二) (二)は争う。

本件文書に労働協約としての効力がないこと及び労使慣行が存在していないことは前記1(一)のとおりである。

(三) (三)は争う。

本件応援命令は、昭和六三年四月から始まった三ケ月の長期ストにより生じた受注辞退、取消、転注等に起因した異常事態に対応し、かつ、解雇等を避けるための措置として実施したものであり業務上の必要性及び合理性がある。

3 再抗弁に3について。

争う。

争議行為は目的が適法であって初めて正当性を持つものである。特別休暇願を認めるかどうかは被告の裁量であり、これまで組合業務のうえから休暇をとることが必要不可欠と会社が判断した場合に恩恵的に認めてきたものである。したがって、これが拒否された場合、組合業務に支障がでるとしてストライキをしても目的において正当な争議行為とはいえず、違法である。

4 再抗弁4について。

争う。

岡山、大阪、茅ケ崎工場で六日からストに入ると言うことの説明を受けたことはない。被告は右無通告ストライキにより重大な損失を被った。

5 再抗弁5について。

争う。

被告は、内山労組の分裂を図ったことはなく、不当労働行為の事実はない。にもかかわらず、原告小野は、証拠集めのためとして、就業時間中、組合員にイエローカードを所持させ、管理職を監視し管理職の言動を記入するよう各組合員に指示したばかりか、同じく就業時間中組合員にワッペンを着用させた。組合活動は就業時間外に行うものであり、正当な活動ではない。

6 再抗弁6について。

争う。

原告小野には、藤崎作業所に就労する義務がある。そうでなくても、配置転換がなされた以上、原告らには、元の職場には働く場所がなく、そこへ出入りするのは、会社の秩序を乱すものである。

7 再抗弁7について。

(一) (一)は争う。前記1(一)のとおり労働協約としての効力を有しない。

(二) (二)は争う。原告小野主張の労使慣行は存在しない。仮に存在していたとしても、本件文書は有効期間満了日である平成元年一月一二日の経過により失効したから、本件文書を媒介として成立した労使慣行も同日限りで失効した。

(三) (三)は争う。

(原告萩原)

一  請求原因

1 原告萩原は、昭和三六年一月九日、被告と雇用契約を締結し、第一工場コルクジスク製造の職場を経て、第二工場品質管理検査組に勤務していた。

2 被告は、原告萩原に対し、平成元年四月二七日付けで懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇Ⅱ」という。)をし、右意思表示はそのころ同原告に到達した。

3 被告は、本件懲戒解雇Ⅱには、解雇事由が存在すると主張している。

よって、原告は、被告に対し、

(一) 被告が平成二年九月分までに原告萩原に支払うべきであった賃金、一時金、業績貢献金、奨励金、健康保健料事業主負担分等(別紙請求債権計算書記載のとおり。)

(二) 被告が平成二年一〇月以降原告萩原に支払うべき一か月の賃金(別紙請求債権目録の平成二年度賃金額欄記載のとおりであり、その支払日は毎月二五日)

(三) 被告の不当な解雇による精神的、経済的苦痛に対する慰謝料(金銭に換算すると一万円)

の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

本件懲戒解雇Ⅱの懲戒事由は次のとおりである。

1 配転命令拒否

(一) 被告は、昭和六三年一〇月三日、原告萩原に対し、同月四日付けで現職を解き総務部藤崎作業所勤務とする旨命じた(本件配転命令Ⅱ)。

(二) 原告萩原は、本件配転命令Ⅱに服さず、同月四日以降も、第二検査組に立ち入り、片付けをするなどした。原(ママ)告は、文書で再度命令すると共に、新配置についていないことに対して再三警告書を発したが、原告萩原は従わず、守衛が「第二工場への入門はしないように。」と再三にわたって注意したにもかかわらず、元の職場へ出入りし、藤崎作業所には就労しなかった。被告は、昭和六三年一〇月二一日、一一月二一日、一二月二二日、平成元年一月二三日、二月二二日、三月二五日の六回にわたって藤崎作業所へ就労するよう警告し、藤崎作業所へ就労していない期間は欠勤として処理する旨通知すると共に、懲戒に処する権利を留保することを通知したが、原告萩原は藤崎作業所には就労しなかった。原告萩原は、昭和六三年一一月二九日には、守衛の注意に対し、給料ももらっていないんだから帰ると言って入門せずに立ち去り、その後数日間は守衛の注意を受けては立ち去る行為を繰り返したが、その後は解雇に至るまで無届欠勤が続いていた。

(三) 原告萩原の右行為は、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、一五号、三二条(入場の拒否)二号、六号、三四条(欠勤の届出)一項、二項、四項、五〇条(異動)二項に違反し、六八条一号、一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

2 欠勤者の無許可会社構内立入り

(一) 原告萩原は、六三年一〇月四日以降、藤崎作業所への配転命令を拒否し、元の職場に勝手に出入りした。同月二八日以降、守衛の入門制止を聞かず、昭和六三年一一月二八日までの間岡山第二工場に立ち入った。同月一六日には、工場長に面会を求め、原告小野とともに、第二工場をうろうろした。これらの行為に対し、被告は、一一月二一日通知書を発し、警告した。

(二) 右行為は、就業規則六条(服務規律)一五号ロ、ハ、三二条(入場の拒否)二号、六号に違反し、六八条一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1(一)は認める。(二)、(三)は争う。

2 同2は争う。

五  再抗弁

1 配転命令の無効

(一) 労働協約及び労使慣行違反

(1) 原告小野に関する再抗弁1(一)(1)と同じ。

(2) 原告萩原は、内山労組の組合員であり、本件配転命令Ⅱが発せられた当時、内山労組の中央執行委員(中央調査部長)であったから、本件規定二項、三項により、同人の配転については、事前に内山労組と協議決定しなければならない。

(3) 原告小野に関する再抗弁1(一)(3)と同じ。

(二) 誠実協議義務違反

原告小野に関する再抗弁1(二)と同じ。

(三) 不当労働行為

(1) 原告萩原は、昭和六〇年九月から同六三年一一月二六日まで中央執行委員(同六一年九月からは中央調査部長)であり、同日以降第二工場執行委員兼書記長である。

(2) (2)ないし(7)は、原告小野に関する再抗弁1(三)(2)ないし(7)と同じ。

(四) 人事権の濫用

原告小野に関する再抗弁1(四)と同じ。

2 争議参加者、欠勤者の無許可会社構内立入り

原告萩原は、本件配転命令Ⅱが無効であるから、従前の職場で就労しようとしただけであるから、違法ではない。

3 懲戒処分手続違反

原告小野に関する再抗弁7と同じ。

六  再抗弁に対する認否

1 再抗弁1について

(一) (一)(1)は、原告小野に関する再抗弁1(一)(1)に対する認否と同じ。(2)は、原告萩原が、内山労組の組合員であったこと及び本件配転命令Ⅱが発せられた当時、内山労組の中央執行委員(中央調査部長)であったことは認める、その余は争う。(3)は、原告小野に対して再抗弁1(一)(3)に対する認否と同じ。

(二) (二)は争う。

(三) (三)(1)は、原告萩原が、昭和六〇年九月から同六三年一一月二六日まで中央執行委員(同六一年九月からは中央調査部長)であったことは認める。その余は否認する。(2)以下に対する認否は、原告小野に関する再抗弁1(三)(2)ないし(7)に対する認否と同じ。

(四) 原告小野に関する再抗弁1(四)に対する認否と同じ。

2 再抗弁2は争う。

3 再抗弁3は、原告小野に関する再抗弁7に対する認否と同じ。

(原告久保田)

一  請求原因

1 原告久保田は、昭和四八年一月二二日、被告と雇用契約を締結し、第二工場技術課、同工場製造一課主任補として勤務してきた。

2 被告は、原告久保田に対し、平成元年四月二七日付けで原告を懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇Ⅲ」という。)をし、右意思表示はそのころ原告小野(ママ)に到達した。

3 被告は、本件懲戒解雇Ⅲには懲戒事由が存在すると主張している。

よって、原告は、被告に対し、

(一) 被告が平成二年九月分までに原告久保田に支払うべきであった賃金、一時金、業績貢献金、奨励金、健康保健料事業主負担分等(別紙請求債権計算書記載のとおり。)

(二) 被告が平成二年一〇月以降原告久保田に支払うべき一ケ月の賃金(別紙請求債権目録の平成二年度賃金額欄記載のとおりであり、その支払日は毎月二五日)

(三) 被告の不当な解雇による精神的、経済的苦痛に対する慰謝料(金銭に換算すると一万円)

の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

原告久保田の懲戒事由は、次のとおり配転命令拒否である。

(一) 被告は、昭和六三年一〇月三日、原告久保田に対し、同月四日付けで現職を解き第一営業本部東部ガスケットシール部(以下「東京支店」という。)勤務とする旨命じた(本件配転命令Ⅲ)。

(二) 原告久保田は、東京支店への赴任日となっていた同年一一月一五日に赴任せず、第二工場へ出勤した。被告の総務部長が、改めて赴任日を一日遅らせて同月一六日とする旨伝えたが、これにも従わず、翌日も岡山第二工場に出社した。同月一二日、岡山第二工場石原製造一課長が、仕事の引き継ぎのためファイル毎の説明を求めたが、被告久保田は本件配転命令Ⅲには承諾をしていないとして引継ぎを拒否した。被告は、同日、文書で、即刻本件配転命令Ⅲに従うよう警告するとともに、口頭で工場内への立ち入りを禁ずる旨通知したが、原告久保田はその後も無断で第二工場に出入りし、東京支店にも連絡をしなかった。被告は、同年一二月九日、同月二二日、平成元年一月二三日、二月二二日、三月二五日の五回にわたって東京支店へ行くよう警告するとともに、赴任していない期間は欠勤として処理することを通知したが、原告久保田は解雇に至るまで東京支店へ赴任せず、無届欠勤を続けていた。

(三) 原告久保田の右行為は、就業規則五条(職場規律)、六条(服務規律)二号、三二条(入場の拒否)二号、六号、三四条(欠勤の無届)一項、二項、四項、五〇条(異動)二項、五一条(業務の引き継ぎ)に違反し、六八条一号、一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

四  抗弁に対する認否

(一)は認める。(二)は争う。

五  再抗弁

1 本件配転命令Ⅲの無効

(一) 労働協約又は労使慣行違反

(1) 原告小野に関する再抗弁1(一)(1)と同じ。

(2) 原告久保田は、内山労組の組合員であり、本件配転命令Ⅲが発せられた当時、内山労組の特別中央執行委員兼組織検討委員会委員長であったから、本件規定二項、三項により、同人の配転については事前に内山労組と協議決定しなければならない。

(3) 原告小野に関する再抗弁1(一)(3)と同じ。

(二) 実協議義務違反

原告小野に関する再抗弁1(二)と同じ。

(三) 不当労働行為

(1) 原告久保田は、内山労組の代議員を一期務めた後、昭和六三年八月一〇日から同一一月二六日まで特別中央執行委員兼組織検討委員会委員長を務め、同月二六日より、中央執行委員、中央副委員長である。

(2) 原告小野に関する再抗弁1(三)(2)と同じ。

(3) 被告は、本件配転命令Ⅲにより、原告久保田を営業担当にするとのことであるが、同人は、第二工場製造一課主任補としてガスケットの製造に当たっていた技術者であり、性格的にも、営業マン、セールスには向いていない。技術者出身の営業マンが必要であれば、昭和六一年の機構改革と同時に適任者を選任し配属しているはずであるが、被告は、本社営業部に担当者をおいた以外には他の五カ所の営業本部にはそういう人材の配置をしてこなかった。また、岡山の各工場から東京への配転は、管理職以外の通常の組合員では初めてのことである。あえて今回このような配転をする必要性も合理性もない。

(4) 原告久保田には、実母(六八歳)、妻(三九歳)、長男(中二)、二男(小六)、三男(小四)の家族があり、実母の出身地である岡山に生活の本拠を定めている。東京に勤務することなど全く予想もせず、地元の企業として被告に入社したものである。実母は高血圧の持病で通院治療しており、原告久保田が東京に配転されることにより家族が受ける損害は図り知れない。原告久保田自身、高血圧と胃潰瘍の持病で投薬を受けており、慣れぬ東京でのセールスに従事すればこれらの悪化が当然に予想される。

(5) 原告久保田は、組合分裂の際に、守屋第二工場長外管理職から、内山労組からの脱退を勧誘されたがこれを拒否した。その際に、右管理職らから、会社の思想についてこれない者は排除する旨脅かされていた。

(6) 被告と内山労組の協定では、営業担当は非組合員とされている。したがって、原告久保田は、本件配転によって非組合員となる。

原告久保田は、組合分裂前から組合活動に協力的であったが、分裂の過程で、右のとおり脱退勧奨を拒否し、内山労組の組織の立て直しをはかるために、特別中央執行委員となり、組織検討委員会委員長として積極的に活動した。その結果、脱落者を防ぎ内山労組をより力強いものとするために大いに貢献した。また、岡山地方労働委員会において、不当労働行為の立証のために内山労組側の証人として出頭することが予定されている。

そのような原告久保田を非組合員としたうえ、東京に配置しようというのであるから組合に対して与える影響は甚大である。

(7) したがって、本件配転命令は、原告久保田及び内山労組の組合活動を嫌悪し、他の従業員から隔離して、その組合活動を抑止し、ひいては内山労組を弱体化し、その影響力を弱めるためになされたものであって、組合への支配介入を目的としたものであるから、労働組合法第七条一項(ママ)、三項(ママ)の不当労働行為であり、無効である。

(四) 人事権の濫用

以上のとおり、本件配転命令Ⅲは、配転の合理的根拠も必要性もないのに、東京での就労という不利益を与えているもので、本来原告久保田が契約した労働契約の内容を大きく変更するものである。また、その手続も一方的であり、十分な協議も打診もされていない。このような人事権の行使は権利の濫用である。

2 懲戒処分手続違反

原告小野に関する再抗弁7と同じ。

六  再抗弁に対する認否

1 再抗弁1について。

(一) (一)(1)は原告小野に関する再抗弁1(一)(1)に対する認否と同じ。(2)は原告久保田が内山労組の組合員であることは認める。その余は知らない。(3)は原告小野に関する再抗弁1(一)(3)に対する認否と同じ。

(二) (二)は争う。

(三) (三)(1)は、原告久保田が、内山労組の代議員であったことは認める。その余は知らない。(2)は争う。(3)は争う。本件配転命令Ⅲは、東京支店ガスケット担当部署の営業部員の退職による欠員の補充という業務上の必要性に基づくものであり、その人選に際しては、自動車部品の販売拡大のためには営業セールスのみならず技術サービスのできる者を当てることが必要であるとの判断から、そのような能力を有する原告久保田を選んだものであり、合理的理由がある。(4)は原告久保田の家族構成については認める。その余は争う。(5)は否認する。(6)は、被告と内山労組の間に営業担当は非組合員となるとの協定があること及び本件配転命令Ⅲにより、原告久保田が非組合員となることは認める。その余は争う。

(四) (四)は争う。

2 再抗弁2について。

原告小野に関する再抗弁7に対する認否と同じ。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

第一原告小野について

一  請求原因について

争いがない。

二  抗弁について

1  配転命令拒否について

(一) (一)については争いがない。

(二) (証拠・人証略)、原告小野本人尋問の結果(以下「原告小野本人尋問」という。他の原告についても同。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告の就業規則第四九条は、従業員の異動、転勤等の告知に関し、辞令を交付して行う。但し、掲示を持って辞令に替えることがある旨規定している。

被告は、昭和六三年一〇月四日、原告小野に対し辞令を交付して、本件配転命令Ⅰを告知した。

しかし、原告小野は右命令に服さず、同日、抗議書を出して新配置に就かない旨表明し、従前の職場である第二工場CC加工組に出入りしてペンキ塗りなどを行った。被告は、同日、第二工場長守屋総一郎名で新配置に就くようにとの命令書を発するとともに被告代表者名で即刻新配置に就くよう警告書(二通)を発した。これに対し、原告小野は昭和六三年一〇月五日にも抗議書(二通)を提出して以後藤崎作業所への就労を拒否し続け、守衛から「第二工場への入門はしないように。」と注意されたにもかかわらず、元の職場に出入りした。そこで被告は、同月二一日、昭和六三年一一月二一日、一二月二二日、平成元年一月二三日、二月二二日、三月二五日の六回、藤崎作業所へ就労するよう警告し、藤崎作業所へ就労していない期間は欠勤として処理することを通知したが、原告小野は一度も藤崎作業所へは就労しなかった。

(2) 被告の就業規則には、次のとおり規定している。

「第五条(職場規則)

従業員は、会社の指示にしたがい自己の職責を重んじ業務に精励しなければならない。

第六条(服務規律)

従業員は、作業能率の向上と職場秩序の維持のため、次の事項に違反することなく誠実に職務に従事し、以て明朗快適な職場雰囲気の保持に務めなければならない。

1 互いの友愛の念を以て協同して作業に従事すること。

2  会社の経営秩序を遵守し、職務上定められた責任権限を明確に認識し、上長に忠実であると共に下僚の人格を尊重し、その職務を遂行すること。

3  定められた社内規格は厳守すること。

4  就業時間中は作業に専念し、喫煙したり持場を離れたり怠慢に流れないこと。

8 正当な手続をしないで会社の器物を持出したり使用したり、工場内で私物を作ったり作らせたりしないこと。

15 会社の命により守衛のとる次の措置に服すること。

イ 出退場に際し必要ある場合に行う所持品の検査

ロ 就業に不都合と認められる者に対する入場拒否

ハ 就業時間中の出入り禁止

第三二条(入場の拒否)

次の者は入場させないことがあり、又は退場させることがある。

1 兇器その他危険と認められるものを所持する者

2 風紀、秩序を乱し、又は衛生上有害と認められる者

3 酒気を帯びている者

4 正当な理由なく遅刻した者

5 就業禁止の規定に該当する者

6 その他業務遂行上支障のある者

第三四条(欠勤の届出)

Ⅰ 従業員が病気その他やむを得ない事由によって欠勤する場合は、所定の様式により、事前に、具体的事由及び欠勤見込日数を明記して所属上長を経て会社の承認を受けなければならない。

Ⅱ 突発的事由その他やむを得ない事由により前項の手続をとることが出来ない場合は、とりあえず始業前三〇分迄に電話その他の手段を以て会社にその旨を連絡し、了解を求め、その後遅滞なく所定の手続きをしなければならない。

Ⅲ 病気で七日以上連続して休むときは、医師の診断書を添えなければならない。

Ⅳ 正当でない欠勤又は虚偽の事由による欠勤の場合は無届欠勤とする。

第五九条(解雇)

従業員が次の一に該当する時は解雇する。

1 懲戒解雇の決定があったとき。

第六七条(懲戒の種類)

Ⅰ 従業員の懲戒は、本章の規定により行う。

Ⅱ 懲戒を分けて、厳重注意、譴責、減給、出勤停止、役付剥奪及び懲戒解雇とし、次の各号により取扱う。但し、反則が軽微であるか、特に情状酌量の余地があるか、又は改悛の情が顕著であると認められる時は、懲戒を免じ訓戒に止めることがある。

1 厳重注意 特に厳重な訓戒により将来を戒める。

2 譴責 始末書をとり将来を戒める。

3 減給 始末書をとり、一回について平均賃金の半日分以内、総額が当該賃金支払期における賃金総額の一〇分の一以内、賃金を減額しその期間は三カ月以内とする。

4 出勤停止 始末書をとり一〇日以内出勤停止とする。

5 役付剥奪 始末書をとり資格或いは職階を下げる。

6 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇する。

第六八条(懲戒事由)

懲戒に該当する場合は次の各号とする。

1 正当な理由なく欠勤引続き三日を超え又は、一カ月に無断欠勤三日に及ぶ場合。

6 不正に会社の器物を持出し、又は私用に供した場合。

12 職務上、上長の正当なる指示命令に従わず、越権専断の行為をなす等職場の綱紀秩序を乱した場合。

15 会社の承認なく工場内において政治もしくは宗教活動を行い、又は就業時間中組合活動を行った者。

16 その他就業規則により遵守すべき事項に違反した場合」

(三) 原告小野は再三にわたる被告の警告にもかかわらず、正当な理由なく本件配転命令Ⅰを拒否して藤崎作業所へ就労しなかったのであるから、右行為は、就業規則五条、六条二号、三四条一項、二項、四項、五〇条二項に違反し、六八条一号、一二号、一六号の各懲戒事由に該当する。

そして、再三の警告を無視したこと、不就労期間が半年以上に及んでいること等の事情に照らせば、違反の程度は大であるから、懲戒解雇は相当であると認められる。

2 以上のとおりであり、かつ、後記のとおり、右抗弁に対応する再抗弁1は認められないから、抗弁2ないし6について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は有効と認められる。

三  再抗弁について

1  本件配転命令Ⅰの無効について

(一) 労働協約又は労使慣行違反

(1) (証拠・人証略)の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 被告は、工業用コルク製品、工業用ゴム製品、合成樹脂製品、オイルシール等の製造販売を業とする株式会社であり、肩書所在地に本社、岡山第一工場、岡山第二工場を、岡山県邑久郡邑久町に邑久工場、大阪府東大阪市に大阪工場を、神奈川県茅ケ崎市に茅ケ崎工場を置き、東京、名古屋等四か所に支店を有している。従業員数は約九八〇名である。

関連会社として、エヌイーシール株式会社、内山商事株式会社、東洋コルク株式会社等がある(以下それぞれ「エヌイーシール」、「内山商事」、「東洋コルク」という。)。

被告は、当初コルク瓶栓の製造所として設立され、以後コルク製品の製造を中心として事業規模を拡大し、合成ゴム製品や合成樹脂製品等の製造等も手掛けるようになったが、昭和五七年ころからコルク製品の需要が減少したため、昭和五九年以降、ガスケットシール等の自動車関連部品の製造メーカーへの転換を図り、昭和六二年ころには、自社製品の七〇パーセントを自動車関連部品の製造が占めるようになった。

イ 被告には、現在、被告の従業員によって構成される労働組合として、内山労組、内山工業新労働組合(以下「新労組」という。)、内山コルク労働組合(以下「コルク労組」という。)、内山工業大阪工場労働組合(以下「大阪工場労組」という)の四つの労働組合がある。

内山労組は昭和二一年に内山コルク工業所三蟠工場労働組合として結成され、昭和三七年内山工業労働組合と名称変更し、昭和四七年に合成化学産業労働組合連合(合化労連)に加盟したが、昭和六二年、合化労連の分裂に伴って脱退し、新たに結成された全国化学労働組合協議会(全国化学)に参加した。

内山労組以外の組合は、いずれも昭和六三年六月以降に結成されたものである。新労組は昭和六三年六月一七日、コルク労組は同年七月二九日、大阪工場労組は同年一一月に、それぞれ結成された。

ウ 原告小野は、昭和三五年一月二五日被告に入社、第一工場コルク製造課においてコルクジスク製造業務を担当し、昭和四七年から班長職に従事し、昭和六〇年に第二工場製造一課CC加工組に配転となり、以後本件配転命令Ⅰまで同加工組の班長として出荷業務を担当していた。入社当初から内山労組の組合員であり、昭和四五年に執行委員青年婦人部部長、昭和四六年四月に中央執行委員、同年七月から五一年九月まで、昭和五七年執行委員、昭和五八年九月から昭和六三年一一月二六日まで執行委員長であった。

原告萩原は、昭和三六年一月九日、被告に入社し、第一工場コルクジスク製造の職場を経て、昭和五八年から本件配転命令Ⅱまで、第二工場品質管理検査組に勤務してきた。入社当初から内山労組の組合員であり、本件配転命令Ⅱが発せられた当時は、内山労組の中央執行委員(中央調査部長)であった。

原告久保田は、昭和四八年一月二二日、被告に入社し、第二工場技術課から本件配転命令Ⅲまで同工場製造一課主任補として勤務してきた。入社当初から内山労組の組合員であり、過去に組合の代議員を二期務めたことがあるほか、昭和六三年八月一〇日から同一一月二六日まで、特別中央執行委員兼組織検討委員会委員長であった。

エ 被告と内山労組間には、「労働協約」と題する文書(本件文書)があり、その三四条には組合員の異動につき「組合員の職場、職種転換は本人の意思技能を公正に考慮して行う。但し組合に異議ある場合は組合と協議する。Ⅱ各事業所への転勤又は関係会社への出向については本人の意思技能を公正に考慮して行う。但しこの場合事前に組合と協議のうえ決定する。Ⅲ組合役員を異動する場合は事前に組合と協議決定する。(確)1 組合役員とは執行委員を指す。」旨規定されているが、本件文書には、被告及び内山労組の各代表者の署名又は記名押印がない。他に、署名又は記名押印のある労働協約は存在しない。(赤木真佐雄の陳述書(〈証拠略〉)は、昭和二七年当時、労使双方の代表者が本件文書と同じ「労働協約」に記名押印したとするが、署名又は記名押印のある労働協約が現存していない以上、右陳述書は採用できない。)

右認定事実によれば、本件文書には、被告及び内山労組の各代表者の署名又は記名押印がないから、本件文書は、労働組合法一四条の定める労働協約としての効力発生要件を具備しておらず、同法による効力は認められない。

もっとも、前掲各証拠によれば、被告と内山労組は、昭和五二年一一月三〇日付けで、従前の「労働協約」と題する書面の三四条一項及び二項をそれぞれ本件文書三四条一項及び二項の文言に改める旨の「労働協約改定に関する協定書」を作成し、被告及び内山労組の各代表者が記名押印したことが認められるから、本件文書三四条一項及び二項については、同法一四条の要件を満たし、部分的に労働協約としての効力が認められる。

同条三項については、労働協約としての効力を認めることはできないが、前掲各証拠によれば、被告と内山労組間では、昭和六三年九月ころまでは、本件文書を労働協約として扱ってきており、その間一〇数回にわたってその改定に合意してきたこと、組合員の異動についても、本件規定に基づいて、労使間で協議、決定されたうえで実施されてきた。

被告は、昭和六三年九月ころ、弁護士の指摘により、本件文書に労使双方の署名又は記名押印がなく、労働組合法上の効力発生要件を満たしていないことに気付き、同年九月八日、内山労組に対し、労働協約の見直しを申し入れ、同年一〇月六日、本件文書には労働協約としての効力はない旨通知したが、それまでは、組合員の異動について本件規定を適用することについて何等問題にしていなかった。

以上の認定事実によれば、昭和六二年当時、組合員の異動について本件規定どおり労使間で協議したうえで決定するとの労使慣行が確立していたと認められる。

したがって、結局、被告には、本件文書三四条二項については労働協約上の義務、同条三項については、右条項のとおりの労使慣行上の義務があると認められる。

もっとも、原告らは、本件文書三四条二項及び三項の「協議のうえ決定」、「協議決定」とは、労使双方の合意すなわち内山労組が同意することを意味すると主張するが、右各条項自体には、内山労組の同意を条件とする旨の文言はなく、右条項制定時における労使双方の協議の過程でも、内山労組は、配転に際し内山労組及び本人の意思を十分尊重することを求めてはいるが、同意を条件とすることまで要求してはいない(〈証拠略〉)。右の事実のもとで被告が、内山労組の同意のうえでなければ異動を行わないという認識を有していたとは認められない。過去一五年の間、組合員の配転について、組合が反対したにもかかわらずこれを押し切って配転された例がない(〈証拠・人証略〉)からといって、右認定を左右しない。

オ 被告と内山労組は、本件配転について、昭和六三年九月二三日、同月二六日、同月二七日、同月二八日、同月三〇日の五回にわたり、各一ないし二時間半の経営協議会を開催し、被告から内山労組に対し、会社の長・短期の展望、受注量の予想及びこれに対応した人員構成、余剰人員の発生並びにその吸収策及び藤崎作業所の新設の必要性、藤崎作業所への配転対象者の人選に関する一般的基準、第一営業本部・東部ガスケットシール部の状況及び人員配置の必要性、原告久保田を選んだ理由等について説明がなされたが、内山労組側は納得せず、結局物別れに終わった。

(2) 以上の事実によれば、被告は、本件配転につき内山労組と協議したうえで、本件配転命令を発したものと認められる。

したがって、原告小野に対する本件配転命令Ⅰが労働協約又は労使慣行に違反する旨の原告小野の主張は理由がない。

(二) 誠実協議義務違反について

右に認定した事実関係によれば、本件配転命令に関する被告の対応が、信義則上許されない不誠実なものであったとはいえない。

(三) 不当労働行為

(1) (証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 内山労組は、昭和六三年春闘における被告の回答額を不満として、同年四月二五日から同年六月二四日までの間に、自動車部品を製造している第二工場、邑久工場を中心に、延べ四九日間に及ぶストライキを実施した。これに対し被告は、もし部品の納期が遅延して取引先である自動車メーカーの生産ラインが停止すれば、取引先に多大な損害を与え、多額の賠償金を請求されたり、信用をなくして取引停止となりかねないので、そのような事態を防ぐために、管理職、臨時及びパート従業員ら非組合員による作業及び関連会社であるエヌイーシールや外注会社への生産委託等によって取引先への部品の出荷を確保すると共に、得意先への受注辞退、試作辞退、同業他社への転注依頼及び輸出製品の納期調整、輸送調整等の方策を講じた。そのため、特にストライキの行われた第二工場におけるベアリングシールの生産数量は、ストライキ前に比べて大幅に(約二二〇万個減)減少した。被告は、同年八月に、同年一〇月から始まる第三三期事業年度の販売、生産、人員計画を立てたが、その際、ストライキによっていったん減少したベアリングシールの受注量は、受注辞退等によって得意先の不興をかったこと及びいったん子会社や外注会社へ委託した分についてはストライキが終わったからといって直ちに従前どおりに戻すわけにはいかないことなどの理由から、ストライキ終了後もすぐには回復しないと予測した。そして、右のような事情から、第三三期上半期(一〇月から三月まで)の販売、生産、人員計画については、流動的、暫定的にならざるを得ないとして、販売計画は毎月見直し、人員配置も毎月の生産計画に合わせて見直し、異動を行うとしたうえで、第二工場及び邑久工場におけるベアリングシールの生産計画を、ストライキによって低下した数字とほぼ同じものとして低めに算出し、それに対応した人員計画を立てた。

その結果、第二工場二一名、邑久工場二名の合計二三名の余剰人員が発生することとなった。

被告は、右余剰人員対策につき、当時の労使関係や将来の受注回復の見込を考慮した結果、本社員、臨時、パートのいかんを問わず従業員の解雇、出向、自宅待機等の措置は取らず、全員を会社内で吸収することとし、まず二三名の余剰人員のうち七名を第一工場に、三名を総務部営繕課に、一名を総務運転手に配転してこれを吸収したが、それでもなお一二名の余剰が生じた。

そこで被告は、右一二名の吸収策として、それまで内職として外注していた第二工場及び邑久工場のベアリングシールのバリ仕上、検査作業、不良からの良品選別並びに第一工場のコルク栓検査作業を被告従業員に行わせることとした。右作業を行う場所としては、作業内容が第三工場にまたがっていること及び今回の配転が受注回復までの暫定措置であり、受注量が回復すれば配転させた人員を元の工場に戻し、その後は内職拠点作業所とする予定であることなどの理由から、工場外に新たに作業所を設置することとした。

そこで、被告は、岡山市藤崎に約三三〇平方メートルの敷地を借り、約七九平方メートルのプレハブの作業所(藤崎作業所)を建設し、一二名の従業員を配置することとした。

イ 被告は、藤崎作業所に配転する者の人選に際し、臨時、パート従業員について配転を実施すると退職する可能性が高く、それでは受注量が回復した時点で再度雇用しようとしても人材確保が困難となるおそれがあると判断して、終身雇用を前提としている正社員から選出することとした。具体的な人選基準としては、主たる作業内容が、バリ仕上、検査作業という個人作業であるので、総合力を必要とする生産ラインには不向きであるが個人作業では能力を発揮する人を抽出して人選することとし、その適否については、協調性、積極性、向上心の有無、能率の善し悪しを主な判断基準とした。

ウ 原告小野は、直属の上司や第二工場長その他の管理職から、スタンドプレーが多い、出荷業務を放置して勝手に職場を離れることが多く、同僚の出荷担当作業者等からの不満がでている、担当職場の業務全般についての習熟に欠け、班長としての指導力に問題がある等の評価を受けていた。

そのため、被告は、右人選基準に適合するとして、原告小野を藤崎作業所へ配転する者として選出した。

エ 被告の就業規則第五〇条には、会社は業務の都合で従業員に転勤を命じ、又は職場もしくは職種の変更を命ずることがある。前項の場合、従業員は特別の理由がなければこれを拒むことができない旨の規定がある。

原告小野と被告との間の雇用契約には、職種、職務内容又は勤務場所について特段の限定が付されていない。

以上によれば、原告には藤崎作業所を設置して同作業所へ従業員を配転すべき業務上の必要性があると認められ、配転の対象者に原告小野を選んだことについても、明らかに不合理とまではいえないから、本件配転命令Ⅰには業務上の必要性があると認められる。

なお、原告小野は、人員の余剰はなく被告によって恣意的に作られたものである旨主張している。確かに、(証拠略)によれば、エヌイーシール等の関連会社も含めた会社全体の受注量の総計は減少していないことが認められるが、工場単位で見た場合、第二工場の受注量が減少していることは前記認定のとおりであり、ストライキ期間中にいったん外注に出す等して調整した生産体制を、ストライキが終わったからといって即時もとに戻すことは容易にはできないとして、減少した受注量を前提に人員配置を検討した被告の判断は、必ずしも不当とはいえない。

また、原告小野は、被告には、臨時・パート等、繁閑に応じて雇用調整をする従業員がおり、邑久工場及び本社ではパート従業員を募集採用しているのであるから、人員の余剰が生じているのであれば、臨時雇及びパート従業員の解雇等によって調整すべきであるのに、それをしないで余剰が生じているというのは不合理であるし、余剰人員対策として作業所を新設するとしても、従来の工場の敷地に十分ゆとりがあるのだから、外部に設ける必要はない旨主張するが、余剰人員の処理について臨時雇及びパート等を含めて従業員の解雇を避け本件配転によって対応しようしたこと自体は不合理ではなく、また、作業所をどこに設置するかは、基本的には被告がその経営判断として裁量によって決定し得る事項であり、前記のとおり、その決定に際しては一応合理的な理由に基づいて選定されたものと認められるから、これも不当とまではいえない。

更に、原告小野は、長年班長職にあり部下を指導する立場にあったこと、本件配転命令Ⅰ以前は、夏、冬の一時金の査定評価は五段階評価のうちのA(優良)若しくはB(良い)であったことなどから、被告の原告小野に対する前記評価はこじつけである旨主張しており、本件の証拠中には右主張に沿う部分も認められるが、他方で、前記認定のとおり管理職らの小野に対する評価は必ずしも芳しくはなかったことが認められ、右評価が明らかに不合理であるとする証拠もない。

したがって、原告小野の右主張はいずれも採用できない。

オ 前掲各証拠によれば、藤崎作業所には、駐車場が設けられており、従業員は自動車で通勤することが可能であり、給湯設備、娯楽施設等の厚生施設の面でも他の職場と比べて特別劣っているとは認められない。藤崎作業所への配転は住居の移転を伴わないものであり、給与その他の労働条件は、従前とまったく同一である。

被告は人員配置について一月ごとに見直すことにしており、藤崎作業所への配転は受注回復までの暫定的措置である(事実、藤崎作業所への配転対象者のうち原告小野及び同萩原以外の全員が、平成元年九月二〇日までに元の職場に復帰している。)。

藤崎作業所での業務内容は、不良品の中から良品を選別する作業、バリ取り(ゴム製品の成型後に、はみ出して残っている不要物を除去する)作業等であるところ、右作業内容が原告小野にとって不本意なものであるとしても、そのことが、直ちに原告小野の不利益とは認められない。

藤崎作業所は本社、第一工場、第二工場及び内山労組の組合事務所とは別の場所にあるため、従前に比べて組合活動が制限されることは否定できないが、離れているといっても自転車で数分程度であり、組合活動に著しく支障をきたすとまでは認められない。

以上の事実が認められ、右事実によれば、本件配転命令Ⅰにより原告小野が受ける不利益は、受忍限度の範囲内であると認められる。

カ 被告は、昭和五九年ころから従来のコルク製品中心の事業内容から、自動車関連部品製造メーカーとしての転換を図るようになり、従業員に対しても、自動車業界の一員であることを認識するようにと意識改革を求め、昭和六三年春闘における賃上げ交渉においても、自動車産業の平均賃金を基準とした賃上げ額を回答した。被告の対応を不服とする内山労組は、同年四月一二日以降、数度の全面ストライキや重点部門指名ストライキを実施し、その間、数回にわたり団体交渉を申し入れたが、被告は、内山労組が被告の基本方針について理解を示さない限り進展はないとして右申入れを拒否したため、内山労組は同年六月二四日までストライキを続けた。

右ストライキ期間中の同年六月一七日、邑久工場の内山労組組合員一三名が新労組を結成し、同月二〇日に内山労組から脱退した。これに対し、内山労組は、ユニオンショップ協定の存在を主張して、脱退者は解雇の対象となるとの見解を表明したが、被告は同月二二日、新労組を組合として認め内山労組からの脱退者について雇用を保障する旨表明した。同年七月二九日には第一工場のコルク事業部の従業員一二名を中心にコルク労組が結成され、これについても被告は同年八月二日に組合として認知する旨表明した。

新労組結成直後から、被告の管理職数名が、内山労組の組合員数名に対し、内山労組からの脱退及び新労組への加入を勧める趣旨の発言をした。

内山労組は、従来から被告の施設である構内放送設備を使用して組合員への連絡を行っており、また、被告施設である修養館を集会等のために使用していたが、被告は昭和六三年六月ころから、内山労組の使用を拒否するようになり(新労組に対しては組合集会としての修養館の使用を認めている。)、内山労組の上部団体関係者が被告工場敷地内に入構することを拒否するようになった。また、従来、組合用務で就業時間中に職場を離れる場合には、通常の欠勤よりも有利な特別休暇として承認するという取り扱いがされていたが、被告は、昭和六三年六月九日以降、特別休暇の申請に対しその承認を拒むようになった。

内山労組は、「組合ニュース」、「すくらむ」といった機関紙で右のような被告の対応を激しく批判し、これに対し、被告はウチヤマニュースで、内山労組はストライキ至上主義であり会社を潰すものであるとしてその方針や体質を批判した。

新労組結成以降、内山労組を脱退して新労組等へ加入する従業員が増え、新労組結成前には、三八〇名を超えていた内山労組の組合員数は、同年一〇月六日の時点で一六九名に減少した(右同日時点の他の組合の組合員数は、新労組一八五名、コルク労働組合二七名である。)。

また、被告は、本件配転後の昭和六三年一一月八日、従前行っていた組合費のチェックオフについて新たな協定書の締結を申し入れた。その際被告から提示された案にはストライキを行った場合にはチェックオフを行わない旨の条項があったため、内山労組は右条項を削除した案を逆提案し団体交渉を要求したが、被告はこれを拒否し、同月二一日、協定が結ばれなかったことを理由として同年一一月分からのチェックオフを廃止した。

以上の事実が認められ、右認定事実によれば、本件配転命令Ⅰ当時、被告が内山労組の活動、特にストライキを嫌悪し、その弱体化を意図していたとみるべきである。

なお、原告小野は、〈1〉内山労組の組合員に対する総務部営繕緑化班への応援命令、〈2〉昭和六三年一〇月四日付けの人事異動で内山労組の組合員の多数が異動の対象とされたこと、〈3〉昭和六三年一一月から開始された業績貢献金の支給につき内山労組の組合員と他の労組の組合員との間で差があることについても、被告の内山労組に対する差別的取り扱いである旨主張する。確かに、右のような当時の労使関係に照らせば、右〈1〉ないし〈3〉が、内山労組の組合員に対し不利益な取扱いをしてその脱退を促し、内山労組の弱体を図る目的でなされたものとの疑いはある。しかし、他方、〈1〉については、昭和六三年春闘における長期ストライキ期間中、ストライキ参加者以外の従業員による生産体制が整備されたために、ストライキの終了によりストライキ参加者が職場復帰しても、即座に元の職場に戻したのでは混乱が生じるおそれがあったことから、暫定的措置として応援命令を出したとの被告の主張にも一応の合理性はあること、〈2〉、〈3〉については、個々人の事情を抜きにした一般的に右事実が存在するということによっては一概に内山労組の組合員であることを理由とする不当な差別とはいえないから、いずれも採用できない。

右事実に加えて、藤崎作業所への配転者一二名(邑久工場から二名、岡山第二工場から一〇名)の全員が内山労組の組合員であり、原告小野及び同萩原の外、曽根隆仁中央書記長、松木一郎中央執行委員兼邑久工場支部書記長という組合役員が含まれており、その余の者も現職の代議員又はかつて代議員となった経験がある者であったこと、藤崎作業所が本社、第一工場及び内山労組の組合事務所のある第二工場から離れていること、建物がプレハブであり他の本社建物や工場に比べ見劣りすること、作業内容が単純で原告小野らにとって不本意なものであること等の事実によれば、本件配転命令Ⅰを発するに際し、被告に、内山労組の組合員で執行委員長である原告小野に対する差別的な意図があったことは否定できない。

しかし、前示のとおり、藤崎作業所の設置及び同所への配転の必要性が認められること、人選についても合理性がないとはいえないこと、労働条件における格別な差異はないこと、配転により組合活動に著しい支障をきたすとは認められないこと、本件配転命令Ⅰが受注回復までの暫定的措置であり、原告小野及び萩原以外の一〇名については平成元年九月二〇日までに元に職場に復帰していること、藤崎作業所への配転によって原告小野が受ける不利益はさほど大きくないこと等の事実が認められ、以上の事情を総合的に判断すれば、本件配転命令Ⅰが、原告小野を他の従業員から隔離してその組合活動を抑止することを決定的な動機としてなされたものとまでは認められない。

(2) 以上のとおりであるから、再抗弁1(三)を認めることはできない。

(四) 人事権の濫用

(1) 前示のとおり、本件配転命令Ⅰには業務上の必要性があり、他方原告小野の受ける不利益は受忍限度の範囲内であるから、本件配転命令Ⅰが人事権の濫用とは認められない。

(2) 以上のとおりであるから、再抗弁1(四)は認められない。

2  再抗弁2~6については、前示二2で説示したとおり、抗弁2~6について判断が不要であるから、判断するまでもない。

3  懲戒手続違反(再抗弁7)について

(一) 労働協約違反

本件文書に労働組合法上の労働協約としての効力が認められないことは、前示のとおりである。

(二) 労使慣行違反

(1) 従前の懲戒手続

前示認定事実並びに(証拠略)、原告小野本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、被告と内山労組間では本件文書を労働協約として取り扱ってきたものであるが、本件文書三三条は、懲戒手続につき、懲戒事由に該当した場合には「その都度経営協議会に付議して懲戒に処することがある。」旨規定している。そして、経営協議会は会社、組合をそれぞれ代表する三ないし七名の委員をもって構成し、会社代表委員は社長がこれを委嘱し組合代表委員は組合において選出し(同一七条)、付議事項は開催日の一〇日前までにその内容を議題提出者から相手方に通知しなければならず(同一九条二項)、議長は会社側委員一名が当たり(同条三項)、意見の一致した事項で必要あるものについては書面に作成し、会社組合双方の機関において確認のうえ労働協約と同等の効力を有するものとする(同二一条)旨規定されていること、従前は、組合員の懲戒については、右本件文書の懲戒手続にしたがって、すべての懲戒事例について経営協議会を開催し、これを懲罰委員会という名称の協議会に切替え、労使双方が協議したうえで実施されていたことが認められる。

(2) 労使慣行

右認定事実によれば、被告と内山労組間では、内山労組の組合員については、本件文書の規定に基づいて懲戒手続がなされるとの労使慣行(以下「本件労使慣行」という。)が成立していたと認められる。

もっとも、(証拠略)によれば、本件文書第八一条(協約の改廃、自動延長)には、「会社又は組合のいずれか一方がこの協約を改廃しようとするときはこの協約の有効期間満了の九〇日前までに相手方に対しその旨の意思表示をすると共に、六〇日前までに文書を以て改定の具体案を提出しなければならない。Ⅱ前項の意思表示がない場合はこの協約の効力は更に一カ月自動的に更新される。Ⅲ会社又は組合の何れか一方が第一項の規定に基づきこの協約を改定しようとする意思表示を行った場合はこの協約の期間満了の三〇日前から交渉を開始しなければならない。Ⅳ前項の交渉がこの協約の有効期間満了までに妥協せず尚引続き交渉が行われる時はこの期間満了後三〇日間有効とする。」と規定されていること、本件文書の有効期間は、平成元年一月一二日であったところ、被告は、前示のとおり、昭和六三年九月八日、その見直しを申し入れ、新たな労働協約の案を提示したが、内山労組がこれに反対していたことが認められ、右事実によれば、右第八一条の自動更新期間を考慮しても、本件文書は、遅くとも平成元年一月一二日には有効期間の満了により失効したと認めることができる。

そして、本件労使慣行は、あくまで本件文書の存在を前提とした上で、その規定どおりの手続によるという内容の慣行であって、労使双方特に被告には、右有効期間を経過した後まで当然に右規定によるとの認識があったとはいえないから、右同日以後は本件労使慣行に存在を認めることはできない。

したがって、労使慣行違反の主張も採用できない。

(三) 労働契約違反

本件労使慣行が失効した場合において、これに代わる懲戒手続規定が存在していなければ、本件労使慣行が暫定的、補充的に、労働契約の内容として規範的効力を有すると考えられる。

しかし、(証拠・人証略)の全趣旨によれば、被告の就業規則に、「第六九条(懲戒委員会)懲戒は、別に定める懲戒委員会の議を経て行う。」、「第七〇条(弁明の機会)懲戒審査に際し、当該従業員には弁明の機会が与えられる。」旨の規定があり、被告は、右第六九条を受けて、昭和六三年一一月八日、後記の懲戒委員会規定を制定してこれを内山労組に通知し、同月九日、労働基準監督書に届け出たことが認められる。そうであれば、本件労使慣行失効後は、就業規則及び懲戒委員会規定が懲戒手続に関する規範となったと解すべきであるから、本件労使慣行が労働契約の内容としてなお効力を有するとの原告小野の主張は認められない。

(四) 懲戒手続

(1) (証拠・人証略)の各本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告の懲戒委員会規定は、次のとおり規定している。

「第一条 この規定は就業規則第六九条に基づき懲戒委員会(以下、委員会という)に関する事項を定める。

第二条 委員会は会社が行う懲戒に関する諮問機関とする。

第三条 委員会は、会社より諮問された事項につき、事実の認定、証拠の確認、懲戒条項の適用につき審議決定し、その結果を答申するものとする。

第四条 委員会には委員長一名、会社代表委員及び従業員代表委員各三名をもって構成する。

委員長は総務部長がこれに当たる。

会社代表委員は労務担当者を含め三名を定める。

従業員代表委員三名は、複数組合存する場合、組合員数の多い順に一名ずつ選ぶ。

第九条 委員会は委員の過半数が出席しなければ成立しない。議事は委員長を除いた出席委員の過半数の賛成で決定し、可否同数の場合には委員会(ママ)がこれを決定する。

第一〇条 委員会は必要ある場合には懲戒の当事者、もしくは証人又は関係者の出席を求めることができる。

第一一条 懲戒を受けるべき者は、委員会の許可を得て、本人又は本人が依頼した従業員をして委員会において弁明し、又は弁護せしめることができる。」

被告は、平成元年四月一九日、内山労組との間で、経営協議会を開催し、原告ら三名を懲戒解雇すること及びその処分理由について、告知した。その際、内山労組から、原告らの懲戒理由について文書で明らかにしてほしいとの申入れがあったため、翌二〇日、懲戒の対象となった事実関係を記載した文書を内山労組に渡し、事実関係について調査のうえ回答するよう伝えた。内山労組は、同月二四日、右事実関係には事実の誤認及び被告の労働協約違反がある旨回答した。

被告は、同月二四日、内山労組、新労組、コルク労組に対し、翌二五日に原告ら三名の就業規則違反行為について懲戒委員会を開催するので各組合より代表者一名ずつの出席を求める旨通知するとともに、原告小野、同萩原及び同久保田に対しても、懲戒委員会に出席して弁明するよう要請した。

同月二五日、被告本社会議室において、懲戒委員会が開催され、委員長として片山公三総務部長、会社代表委員として西島副社長、池上常務取締役、井上総務部次長、従業員代表委員として大平新労組委員長、森本コルク労働組合委員長、書記として奥山総務部長(ママ)主事補が出席した。原告ら三名及び内山労組の代表委員は、前記懲戒委員会規定は不公平、不平等であり認めることはできない旨の抗議書を提出し、右委員会には出席しなかった。

右懲戒委員会は、同委員会規定九条一項により有効に成立し、片山総務部長から被告ら三名の就業規定違反行為の事実につき、別紙のとおりの報告説明があったが、出席した委員の全員が、会社秩序を維持するためには原告ら三名について懲戒解雇もやむをえないとの意見であり、懲戒委員会は、同日、被告に対し、原告ら三名を懲戒解雇とする旨答申した。

これを受けて被告は、同月二七日、原告ら三名につき別紙記載の就業規則違反行為に対し、それぞれ懲戒該当条項にあたるとして、就業規則六七条二項六号に基づき同日付けで懲戒解雇とすることとし、その旨原告ら三名に通知した。被告は、同日、原告らに対し、解雇予告手当を支給したが、いずれも受領を拒絶したため、直ちに岡山地方法務局に供託した。

(2) 右事実によれば、本件懲戒解雇は、就業規則及び懲戒委員会規定に定める手続に従って行われており、本件懲戒手続が手続的に不適法であるということはない。

四  結論

以上のとおり、本件懲戒解雇Ⅰは有効であるから、原告小野の請求は認められない。

第二原告萩原について

一  請求原因について

争いがない。

二  抗弁について。

1  配転命令拒否について。

(一) (一)については争いがない。

(二) (証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告の就業規則第四九条は、「従業員の異動、転勤等の告知に関し、辞令を交付して行う。但し、掲示を持って辞令に替えることがある。」旨規定している。

被告は、昭和六三年一〇月四日、原告萩原に辞令を交付して、本件配転命令Ⅱを告知した。

原告萩原はこれを拒否して同日抗議書を提出した。被告は同日、品質管理部長高橋忠名で命令書を発して藤崎作業所において作業に就くように命じると共に、同日被告代表者名で警告書(二通)を発した。これに対し、原告萩原は、同月五日、本件配転命令Ⅱは労働協約違反であり、配転の必要性、合理性はないとする抗議書を提出した。被告は、同日及び翌六日にも再度警告書(合計三通)及び命令書を発したが、原告萩原はもとの職場付近の掃除をするなどして藤崎作業所には就労せず、守衛が、第二工場への入門はしないようにと注意したにもかかわらず、元の職場に立ち入った。被告は、同月二一日、同年一一月二一日、一二月二二日、平成元年一月二三日、二月二二日、三月二五日の五回にわたって藤崎作業所へ就労するよう警告、藤崎作業所へ就労していない期間は欠勤として処理すること及び懲戒に処する権利を留保することを通知したが、原告萩原は、一度も藤崎作業所へは就労しなかった。

(2) 就業規則

第一の二1(二)(2)において判示したところと同一である。

(3) 懲戒処分としての懲戒解雇の相当性

原告萩原は再三にわたる被告の警告にもかかわらず、正当な理由なくして拒否し、藤崎作業所へ就労しなかったものであるから、右行為は、就業規則五条、六条二号、一五号、三二条二号、六号、三四条一項、二項、四項、五〇条二項に違反し、同六八条一号、一二号、一六号の各懲戒事由に該当する。そして、再三の警告を無視したこと、不就労期間が半年以上に及んでいること等の事情に照らせば、違反の程度は大であることが明らかであるから、懲戒解雇は不当であるとはいえない。

2  以上のとおりであり、かつ、後記のとおり右抗弁に対応する再抗弁1は認められないから、抗弁2について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は有効であるということができる。

三  再抗弁について。

1  本件配転命令Ⅱの無効について。

(一) 労働協約又は労使慣行違反

第一の二2(二)(1)と同じ。

(二) 誠実協議義務違反

第一の二2(二)(2)と同じ。

(三) 不当労働行為

(1) 本件配転命令Ⅱの業務上の必要性

(証拠・人証略)の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 藤崎作業所設置の必要性

第一の三1(三)(1)アと同じ。

イ 人選

第一の三1(三)(1)イと同じ。

ウ 原告萩原の評価

原告萩原について、直属の上司その他の管理職は、仕事に対する積極性に欠け、能率、精度においても問題があるとの評価をしていた。そのため、被告は、右人選基準に適合するとして、原告萩原を藤崎作業所へ配転する者として選出した。

エ 配転命令の根拠

被告の就業規則第五〇条には、「一項 会社は業務の都合で従業員に転勤を命じ、又は職場もしくは職種の変更を命ずることがある。二項 前項の場合、従業員は特別の理由がなければこれを拒むことはできない。」旨の規定がある。

原告萩原と被告との間の雇用契約には、職種、職務内容又は勤務場所について特段の限定が付されていない。

オ 原告萩原の不利益

第一の三1(三)(1)オと同じ。

カ 不当労働行為意思

第一の三1(三)(1)カと同じ。

(2) 以上によれば、原(ママ)告には藤崎作業所を設置して同作業所へ従業員を配転すべき業務上の必要性があると認められ、配転の対象者に原告萩原を選んだことについても、不合理とはいえないから、本件配転命令Ⅱには業務上の必要性があると認められ(原告萩原は、検査業務に従事してきた約五年の間、ミスは一度もなく、QCサークル提案制度にも積極的に取り組み、努力賞を度々受け真面目に勤務していたものであり、被告の右評価はこじつけである旨主張しており、同人の陳述書にはこれに沿う記載があるが、前掲各証拠に照らし採用できない。)、本件配転命令Ⅱによって受ける原告萩原の不利益、被告の不当労働行為意思についての前示判断を総合すれば、再抗弁1(三)を認めることはできない。

(四) 人事権の濫用

(1) 右(三)によれば、本件配転命令Ⅱには業務上の必要性があり、他方原告萩原の受ける不利益は受忍限度の範囲内であるから、本件配転命令Ⅱが人事権の濫用とはいえない。

(2) 以上のとおりであるから、再抗弁1(四)は認められない。

2  前示のとおり、抗弁1が認められ、それに対応する再抗弁1が認められるから、抗弁2を判断する必要はなく、これに対応する再抗弁について判断するまでもない。

3  懲戒手続違反

第一の三3と同じ。

したがって、再抗弁3は認められない。

四  結論

以上のとおり、本件懲戒解雇Ⅱは有効であるから、原告萩原の請求は認められない。

第三原告久保田について

一  請求原因について

争いがない。

二  抗弁(配転命令拒否)について。

(一)  (証拠・人証略)の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 命令違反行為

昭和六三年一〇月三日、守屋第二工場長から、原告久保田に対し、本件配転命令Ⅲの内示及び配転の必要性、人選の基準等の説明があり、同年一一月四日に東京支店に赴任するよう伝えられた。原告久保田は、「九月二六日に、組合から転勤について聞いたが、なぜ私に事前の意向打診がなかったのか。」と質問したが、本件配転命令Ⅲについて明確な拒否の意思表示はしなかった。翌四日、守屋工場長が原告久保田に対し、本件配転命令Ⅲに従うよう説得したところ、原告久保田は、家族と相談する旨回答した。同月七日、原告久保田は片山総務部長宛に本件配転命令Ⅲに関する苦情申立書を提出したため、片山は、原告久保田に対し、守屋工場長と再度話し合うようにと述べて右苦情申立書を返した。同日、守屋が説得したが、原告久保田は、健康状態、家族の反対、内山労組に一任している等主張して、転勤を拒否し、再度、苦情申立書を提出した。

被告は、苦情申立書について審議のうえ、同月一五日に文書で回答し、辞令を交付して、改めて東京支店への転勤を命じた。原告久保田は、更に再苦情申立書を提出したので、被告は、同年一一月一四日、内山労組と団体交渉を開き、転勤の必要性、人選の基準、人選の経過、辞令にいたるまでの経過等を説明し協議した。

その間、同年一〇月一七日には、片山総務部長が、東京での住宅を決めなければならないので単身赴任か家族同伴かを一〇月三一日までに回答するように求めるとともに、単身赴任の場合の経済的優遇措置を伝えたが、原告久保田は期限を過ぎても回答しなかった。

原告久保田は、赴任予定日の同年一一月一五日に東京支店に赴任しなかったため、片山総務部長は、赴任日を一日遅らせて翌一六日とすること及び従前の担当業務の引き継ぎについて指示したが、原告久保田は、翌日になっても東京支店には赴任せず、第二工場事務所内にいた。

被告は、その後も、同月二一日、同年一二月九日の二回にわたって警告書を発し、再度東京支店への転勤を命じたが、原告久保田は結局東京支店には就労しなかった。

(2) 就業規則

第一の二1(二)(2)と同じ。外に、

第五一条(業務の引継)

従業員は、前条の場合、後任者に業務の引き継ぎをしなければならない。

(3) 懲戒処分としての懲戒解雇の相当性

原告久保田は、本件配転命令Ⅲを拒否して、東京支店において就労せず、事務の引き継ぎをするようにとの指示にも従わなかった。このことは、就業規則に違反する。

(二)  そして、原告久保田は、再三にわたる警告を無視したこと、不就労期間が半年におよんでいることなどに照らし、違反の程度は著しいことが明らかであるから、本件懲戒解雇Ⅲを不当であるとはいえない。

三  再抗弁について。

1  本件配転命令Ⅲの無効について。

(一) 労働協約又は労使慣行違反。

第一の三1(一)と同じ。

(二) 誠実協議義務違反

第一の三1(二)と同じ。

(三) 不当労働行為

(証拠・人証略)の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件配転命令Ⅲの業務上の必要性

ア 東京支店について。

被告では、昭和六一年一一月まで、営業部門について関連会社の内山商事、東洋コルクで行ってきたが、被告製品に占める自動車関連部品の割合の上昇に伴い、同年一二月、自動車関連部品担当の営業部門を被告に吸収して直販組織とし、新しく営業本部をつくり、全国六カ所(東京、名古屋、大阪、富山、岡山、広島)の営業所を配置するという機構改革を行った。中でも東京支店は営業部門の中心であり、そのガスケット担当部署は、昭和六二年当時、日産自動車、三菱自動車等を主要な取引先とし、ガスケット製品の取扱い高全体の四二パーセントを占めていた。

東京支店ガスケット担当部署は、昭和六二年当時、六名の営業マンと女子事務員一名で構成されていたが、同年一〇月営業部員一名が退職して欠員が生じたため、営業部員を補充する必要があった。右補充にあたり、被告は、自動車部品の販売拡大のためには、自動車の開発設計段階から設計陣と話をして、ユーザーのニーズをいち早く掴む必要があり、そのためには自動車設計者と話ができる技術者出身の営業マンが必要であると考え、そのような人材を新規に採用すべく新聞広告や職業安定所への募集などを繰り返したが、適当な人物の応募がなかったため、昭和六三年七月ころからは、内部登用を計画しはじめた。

イ 人選

内部登用における人選に際しては、ガスケット製品の技術的知識を修得している、ガスケット製品についての業務内容を熟知している、技術サービスの経験及び能力を有するという基準に基づいて行うこととした。

ガスケット製品に携わっている部門としては、第二工場製造一課(以下「製造一課」という。)と研究本部内の第二技術研究部であるが、研究本部は技術開発のシンクタンクであり、研究開発に手一杯で外にまわす人員がなかった。

製造一課の担当業務は、デリバリ業務(受注、生産計画、出荷事務)、生産管理、試作業務(試作金型、試作品作り)であり、その取扱い製品の七〇パーセントが自動車メーカー向けのガスケット製品であるところ、これについては、従来、下請のエヌイーシール株式会社に機械金型を貸与のうえ生産を下請させ、できた製品を被告がいったん引き取って荷造りし直して自動車メーカーに出荷していたのを、取引先の指摘により、昭和六三年三月以降エヌイーシールからメーカーに直接出荷することになったため、製造一課の業務は大幅減少し、人員にも余剰があった。

そこで、同課の五名中から人選したところ、原告久保田が最も適任であった。すなわち、部門管理者である石原課長は、業務遂行上人選の対象にできず、久保田以外の者は能力、経験の面で前記人選基準に合致しない。これに対し、原告久保田は、技術的知識を修得し、トヨタ自動車、日産自動車等の自動車メーカーとの技術打ち合わせの経験もあり、実績及び能力の面においても前記人選基準に十分適合する(原告久保田は、性格的に営業には向かない旨主張するが、右のような経験、実績、能力等の点から、適任であることは明らかである。)。

ウ 配転命令の根拠

就業規則五〇条は、「会社は、業務の都合で従業員に転勤を命じ、又は職場若しくは職種の変更を命ずることがある。〈2〉前項の場合、従業員は特別の理由がなければこれを拒むことはできない。」旨規定しており、原告久保田は入社時に、「就業規則第五〇条に基づき転勤を命ぜられても異議を申しません。」と記載した誓約書に署名押印している。

以上によれば、東京支店ガスケット・シール部への人員配置の必要性があり、人選についても合理的であることが認められ、本件配転命令Ⅲの業務上の必要性を認めることができる。

(2) 原告久保田の不利益

原告久保田には、実母(六八歳)、妻(三九歳)、長男(中二)、男(ママ)(小六)、三男(小四)の家族があること、実母は高血圧の持病で通院治療していることが認められ、このような家庭事情からすると、家族同伴での配転に困難を生じることも考えられるが、被告は、単身赴任でもよいこと、その場合、別居手当として月二万五〇〇〇円、帰省旅費月一回、帰省交通費の実費を支給するとともに、家賃補助として、社宅貸与規定によれば関東地区では六万七五〇〇円の家賃のところを五万〇五〇〇円の補助をする旨の経済的優遇措置を提示している。また、原告久保田の肩書住所地の近くに同人の弟が住んでいる。

本人の健康状態についても、高血圧ぎみで過去に胃潰瘍を患ったことがある(〈証拠略〉)ものの、被告における定期健康診断では格別の異常はなく、工場における仕事の後、組合活動を行っていたことなどからも本件配転命令Ⅲに耐えられない健康状態ではない。

したがって、本件配転命令Ⅲによって、原告久保田が受ける不利益は被用者として受忍すべき限度を越えていないと認められる。

(3) 不当労働行為性

原告久保田は、本件配転命令Ⅲは、被告の脱退勧奨を拒否したことに対する報復として、また、組織検討委員会委員長として内山労組の組織建て直しに重要な役割を果たしている原告久保田を非組合員にする目的でなされたものである(被告と内山労組の取り決めにより営業担当の従業員は非組合員となることとされている。)、また、原告久保田は岡山地方労働委員会において証人として出頭する予定であり、本件配転はこれを阻止するためのものである旨主張するが、同人の組合活動歴は、昭和六三年八月に特別執行委員になるまでは組合の代議員を二期勤めたのみで、熱心な活動家ではなかったこと、内山労組の組合規約第五条及び第六条により、係長以上の職階(主任はこれに該当する)に就いた場合には組合員資格を喪失するとされており、原告久保田は、本件配転前に、主任試験を受けてこれに合格して主任補の地位にあったから、もし被告が原告久保田を非組合員とするのであれば、主任に昇格させれば済むこと、本件配転命令Ⅲによっても、証人としての出頭は可能であることなどの事実に照せば、本件配転命令Ⅲが、右原告久保田主張のような不当労働行為として行われたものとは認められない。

原告久保田は、岡山の各工場から東京への配転は、管理職以外の通常の組合員では初めてのことである旨主張するが、前記機構改革前には、岡山工場から内山商事への移籍が行われたことがあり、被告内部でも遠隔地への転勤は数回あることが認められる。

以上の事実によれば、本件配転命令Ⅲが原告久保田に対する不当労働行為とは認められない。

(四) 人事権の濫用

右(三)で認定したところによれば、本件配転命令Ⅲには業務上の必要性があり、他方、原告久保田の受ける不利益は受忍限度の範囲内であるから、本件配転命令Ⅲは、人事権の濫用とはいえない。

以上のとおり、本件配転命令Ⅲは有効である。

2  懲戒処分手続違反について。

第一の三3と同じ。

四  結論

以上のとおり、本件懲戒解雇Ⅲは有効であるから、原告久保田の請求は認められない。

第四結論

よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 裁判官 濵本章子)

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